山口一郎インタビュー

INTERVIEW with ICHIRO YAMAGUCHI

音楽と、それにまつわる世界のこと。

Photo_Shota Matsumoto
Text_Tetsuo Yamaguchi
Edit_Asako Saimura

昨年12月から、スペースシャワーTVで放送を開始した「サカナクション NFパンチ」。
ミュージシャンとして常に新しい音楽のかたちを模索するサカナクションの山口一郎は、何を思いこの番組を作っているのか?音楽を取り巻く世界や、メディアがいま目を向けるべきことについて語ってくれた。

─『サカナクション NFパンチ』はどういうキッカケで始まったんですか?

山口一郎:キッカケは、僕がTwitterで音楽メディア批判をしたんですよ。僕、釣りが好きなので、釣りチャンネルをよく観るんですけど、ものすごく専門的でマニアックなことを延々と放送し続けているんですね。釣りが好きじゃない人が観ると何も分からないんだけど、観ていくうちに、そのおもしろさにだんだん気づいたりするんです。でも、今のメディアは音楽のわかりやすい部分しか伝えていない。スペシャもチャート番組ばかりやっていないで、音楽の深い部分をもっと伝えないとダメじゃん!みたいなね。それをいろんなミュージシャンの方がリツイートしてくれて、スペシャのスタッフが“番組作ります!”って言ってくれたのがはじまりですね。

─最初はどんな番組にしようと考えていました?

山口:今の人たちって、音楽を耳にして、いいなと思ったら、まずYouTubeで検索するんですよね。だから、最初から音楽にビジュアルが伴っているんですよ。そうなると、そのビジュアルを作っている人たちも、音楽の一部なわけじゃないですか。なのに、リスナーはそれがすべてミュージシャンのものだと思ってしまっているんです。“オシャレですね”、“髪型が好きです”、“ミュージックビデオ最高です”と言われても、服はスタイリストが作っているし、髪型はヘアメイクがやっているし、映像は映像ディレクターが作っているわけであって。もちろん、そのサジェスチョンをするのはミュージシャンだけど、僕らはみんなで一緒に作っているんだと。だから、僕が思う音楽のおもしろさもそうですけど、それに関わっている人たちのすごさを、音楽の名の下に、エンターテインメントとして伝えられるものにしたいなと思って。まだ始まったばかりなので手探りではあるんですけど、基本的に僕がアイデアを出して、スペシャのスタッフと一緒に、現実的にどうやるかをみんなで組み立てていく感じで進めています。

─第一回の内容は、「NF将棋」「ヒトリテクノ」「絶対バレない男」の3コーナーでしたが、「NF将棋」はどういうところから思いついたんですか?

山口:音制連が出している『音楽主義』というフリーペーパーに、ファッションスナップコーナーがあって。写真に映っている人のところに、その人の好きなミュージシャンが書いてあるんですけど、どう見てもその人のファッションと音楽が結びついていなかったんですね。昔は、たとえばセックス・ピストルズが好きな人は、パっと見でそれが好きだとわかる服装をしていたけれど、今はそれがものすごく乖離している。なぜそういう現象が起きているのか?というのを、音楽側とファッション側から考察したら、同じ問題点があることがわかって。

─それはどんな問題だったんでしょう?

山口:ファッションの人に話を聞くと、ファッションを好きな人は、ファッションにしか興味がないんです。あと、ファストファッションが生まれたことで、ハイファッションに対する概念みたいなものが強くなって、それぞれの間がどんどん開いていっていると。音楽も同じなんですよね。いろんな音楽を簡単に聴けるようになったけど、自分はこういう音楽が好きだっていう嗜好みたいなものが、周りのカルチャーとくっつきにくくなっている。そういう今ある違和感を、エンターテインメントとして表現できないか?と思ったんです。最初はただのカードゲームみたいにしようと思ったんだけど、「NF」のアートディレクターやミュージックビデオも撮ってくれている田中裕介監督が“それ、将棋でやっちゃえば?”って。そこからみんなでルールを考えて行きました。

─一郎さんは「解説」という形で登場されましたが、コメントがとにかくおもしろくて。

山口:あの企画って、地味だし、シュールなんですよね。それで全然いいんだけど、今の人たちって「難しい=おもしろくない」っていう発想になってしまうから、そのためにもエンターテインメントが必要なんですよ。それをどこで作るかといったら、解説しかなかったんですよね。だから、僕が頑張るしかなくて(笑)。

─「ヒトリテクノ」は、ギターの岩寺さんが5分間でトラックを組み上げるところを見せて行くというものでした。

山口:僕は音楽というものがアートという側面を失いつつあると思っていて。今って、ミュージシャンはデビューすると、CDかライブしか表現をする場所がないじゃないですか。だけど、もっと俯瞰でみると、ミュージシャンとしての活動自体を表現として考えることもできるし、僕はそれもアートと呼べると思うんですね。じゃあ、音楽を現代アートとして捉えてもらうために、実際に現代アートの中で音楽を演奏してみたら、何か化学反応が生まれるんじゃないかと思って。僕らは外に向かって発信しているミュージシャンだけど、そのバンドのギターが、現代画家の絵が描かれたホテルの部屋の中で演奏するというこの現象を、一体みんなはどう捉えるの?っていう。さらにそこから音楽を好きな人がアートに興味を持ってくれれば、音楽が橋渡しをしたことになるじゃないですか。僕は、音楽がいろんなカルチャーに触れるための最初のカルチャーであるべきだと思うので、その役割を担うためのコーナーでもあります。

─「絶対バレない男」は、変装して下北沢で弾き語りをされてましたけど、本当にまったくバレなかったんですか?

山口:バレなかったです。スタッフはバレさせたいんですけどね(笑)、僕的には絶対バレたくなくて。というのも、あの意図は、ヘアメイクやスタイリストってすごいんだっていうことと、音楽はビジュアル要素が含まれることでまったく違うものに聴こえるんだっていう典型的な例を出したかったんです。バレずにサラっとやりのけているから、すごさを理解してもらいにくいんですけど、やり続けて行けばわかってもらえると思うし、これをキッカケにヘアメイクやスタイリストの仕事をしてみたいって思う人が1人でもいれば、やった価値があるかなと思います。

─各コーナーにものすごくしっかりとしたコンセプトがあるんですね。

山口:やるからには本気ですから。音楽の名の下に他のカルチャーに触れてほしいけど、まずはみんなをちゃんと音楽に留めておかないと、別のエンターテイメントに行っちゃいますからね。そういう環境を作るためにも、メディアが大事なんです。今、リスナーそれぞれが批評家みたいな時代の中で、メディアが果たすべき役割って、探し方を提案することだと思うんです。今って、音楽を好きな人たち全体の中で、CDを買う人は20%しかいないと言われているんですよ。だから、結局今のチャートって、その20%の中で流行ってる/流行ってないと言っているだけで、それをメディアで流している時点で崩壊しているんです。それにそろそろ気づくべきだと思う。それよりも、いろんな音楽の探し方を伝えて、20%を30%、40%にしていくための活動をすべきで、スペシャはそれができ得るメディアだと思うんです。僕も自分ができることであればやりたいと思っているし、リリースやツアーをすることだけが表現でなく、「NFパンチ」も僕らの作品のひとつだという認識を持ち始めているので、これからも続けて行って、いつかスペシャの看板番組にしたいです。